過去ログ


地獄シリーズ

桜田宏二の場合:

 不気味と恐れられている井戸が隣町の雑木林の中にある。
 その雑木林が立入禁止になったのは十年以上も昔のころだそうだ。俺はそれを友人の鉄也から聞いた。その井戸は現在使われておらず、そもそも井戸としての機能をまったく果たさない、水がない井戸だった。それだけでどうしてその雑木林ごと立入禁止になって、有刺鉄線が張り巡らされるようになったかはわからない。
 ただその雑木林は、
「とても危険、絶対入ってはいけない」
ということを、その隣町では子供に口を酸っぱくして教え込むらしい。それには、「十年も昔の出来事が関係している」と鉄也は言った。
 十年前にあった事件については少しだけ知っている。なぜならその事件によって俺の両親は何者かに惨殺されたからだった。酷い殺され方だった。これは快楽殺人だろう、と警察は言った。腹の肉はごっそりと抉られ眼球は飛び出し四肢は見事に断裂されていた死体になっていたのだ。
 その死体を俺は間近で見た。中学一年のとき、家に帰ったら両親は既にそうなっていたからだった。今は二十二歳だ。変わり果てた両親の姿を見て、俺は「学校を休める」と思ったことを鮮明に覚えている。辺りには血が飛び散っていた。なぜ、そのときそう思ったのか思い出せない。現実逃避したくて、でも出来なくて、その言葉がふっと頭をよぎったのだった。事件はおれの近所、いや、街全体で何件かおこっていた。
 俺は母親の両親のもとに引き取られた。長い間を老夫婦のもとで過ごした。高校時代はろくに学校に行かなかった。就職はできなかった。それ以前に就職活動をおこなわず、アルバイトをしていた。
 亡くなった両親の遺品を引きとりにもともと住んでいたマンションを訪れると、父親の部屋から、
「23681」
 と乱雑に油性ペンで書かれたくしゃくしゃになった紙が机の引き出しから出てきた。なぜだかそれがとても気になってその紙をジーンズのポケットに突っ込んでそれを遺品とし、そのまま老夫婦の家へと戻ったことがある。
 老夫婦に俺は父親がしていた仕事のことを聞いた。父親とはほとんどしゃべらず、仕事にも興味がないからちょっとしたことしか知らなかったからだ。
「あの人は井戸の管理をしていたよ」と老女の方は言った。「とても危険な仕事と承知しながら、給料の破格の高さに釣られて請け負ったのさ。バカだよ、ほんとに、バカだよ」そう言って老女はシクシクと泣いた。
「それを断っていたら、死なずにすんだかもしれないのに」
 と夫の方が言うと、老女はきっと目を鋭くして、「言っちゃダメだよ」と小声で言った。しかし俺にはしっかりと聞こえていた。
 それから二年後、俺が十九歳になったとき老夫婦は揃って死んでしまった。俺は父親の両親に頼んでアパートを借りた。


 俺の親父はひどい男で、俺に暴力ばかりを振るった。仕事で疲れると殴る。蹴る。突き飛ばす。暴言を吐く。俺の持ち物を壊す。死ねばいいのに、と思っていた。母親は神経質で、ときどきヒステリックになるので親父と喧嘩したときは大変なことになる。
 両親の墓参りには一度も行ったことがない。
 俺は「23681」と書かれた紙を持って、今日、初めて両親の墓参りにやってきた。
 両親の墓の前には、先客がいた。中年の、知らない男だった。
「どちらさまですか」
「谷口と言います。息子さん、ですか……?」と中年男は言う。
「そうです」俺は答えた。
 中年男は墓石に水をかけて、掃除し、花を置いた。
「私は、あなたのお父さんと昔働いたことがあるんです」
「そうですか」
「井戸の管理なんですけどね」
「えっ?」
「井戸の管理ですよ」
 俺は耳を疑った。老女の言葉を思い出した。
 ――あの人は井戸の管理をしていたよ
 ――給料の破格の高さ
 ――危険な仕事と承知しながら
 ――断っていたら死なずにすんだかもしれない
「その、井戸の管理とは具体的にどのようなものなんですか?」と俺は尋ねた。
「誰も井戸にいれないようにする仕事だよ」
「それを、父と」
「そうだよ。朝昼夜交代でおこなっていたんだよ」
「あの、どうして、井戸を」
「井戸にはね、獣がいるからだよ。どうしようもない猛獣がいるからね、その井戸に落っこちちゃったら、最後さ」
 と、中年男はへらへら笑った。
「は、はは……」
 俺も愛想笑いをする。
「嘘ですよね」
「うーん……」
 中年男は曖昧に首を傾げる。
「とにかくさ、井戸は、ダメなんだ。井戸に人が、いや、男、だな、男が入っちゃうと、終わりなんだ。また十年前にみたいな大惨事がおこる。絶対に防がなくちゃダメなんだ」
 十年前の大惨事は、また事件未解決のままだった。井戸のある町とその周囲の街で、人が次々に残酷に殺され、身体の一部分を食べられる事件だ。それで親父とお袋は死んだ。
「嘘ですよね」
 と俺はもう一度言う。
「うーん……」
 と中年男はまたもや曖昧に首を傾げた。


 俺はダメ親父ダメお袋のことでも、その死の真相が知りたかった。今日、あの中年男と会うことで、その気持ちが大きくなっていた。
 真相を突き止めるべく、俺はその井戸を目指した。鉄也は俺の事情を知る親友で、長い付き合いなのでそのことを話すと「俺も一緒に行く」と言った。断ったが、「絶対行く」というので一緒に行くことになった。
 その雑木林は噂の通り、有刺鉄線が張り巡らされ呪術でもかけられているのかと思うほど大量に「立入厳禁」と朱色で書かれた紙が膨大な量貼られていた。それが不気味さを引き立てていた。周囲の住民も、ここ一帯は不気味で恐ろしいため子供を決して近づけず、自分たちもこの近くには寄らなかった。
 唯一あった入り口は南京錠がなんと十個もかけられており、頑丈な造りだったため入れず、有刺鉄線をこじ開けて入らなければならなかった。鬱蒼とした雑木林の中、あの中年男が井戸の周りを見張っているのが見えた。
「――!」
 やはりあの男はここの管理をしている奴なんだ。ここから見える井戸には蓋がしてあり、鍵がかけられているように見えた。
「こりゃなかなかだな」と鉄也は言った。その通りだった。
「大きな音を立てればあいつに気づかれるし、ここは慎重にちょっとずつ金槌で有刺鉄線を抉じ開けていくしかないな」
 ということになった。交代で有刺鉄線をどんどん動かしていき、一時間後、ようやく人が通れるであろうスペースが出来た。伏せるようにそこを俺からゆっくりとくぐっていく。落ち葉が擦れる「カサカサ」という音さえにも俺は緊張して汗をかいた。
 二人入ってそっと井戸に近づいて言ったが、とうとう男に気づかれてしまった。
「誰だ!」
「……あ、俺です」
 中年男はしばらく黙った後、「悪いことは言わない。早くここを出て行くんだ」と息を荒げて言った。よく見ると筋肉質なやつだった。
 俺たちは何も答えずそのまま歩き出した。そのとき、ドンっ、と銃声が鳴った。男はポケットから銃を取り出して俺たちに向けていたのだ。そして発砲したのだ。銃弾が俺の顔の横を掠めていき、地面に当たった。
「??え……」
 俺たちは呆然とした。
「今度出て行かなければお前たちを狙う」そう男は言った。
 とてつもない恐怖が込み上げてきた。足が震えそうだった。横で鉄也が俺の耳元でこう囁いた。
「俺がやつの注意を引き付けるから、お前は右から大きく回るようにして走って、俺が手をあげたら井戸に向かうんだ」
「いや、だけどな……」
「何ビビってんだよ。ここは日本だぜ。どうせあれはオモチャの銃だろ。それに本気で撃ったら殺人罪か殺人未遂罪になるんだからよ、撃つわけないじゃんかよ、バーカ」と鉄也は言った。
「そ、そうかな」
「そうなんだよ。いいな、行くぞ?」
「ああ」
 鉄也はまっすぐに駆け出した。俺は言われたとおり右へ大きく回るように走る。鉄也はそのあと銃で撃たれないようにするためか、左右に動いている。中年男は自分に近い標的、鉄也を狙った。俺はそのすきに井戸へ近づいた。そのときだった。また銃声が響いた。顔を上げると鉄也の腹から血が飛び出していた。
 ――あの銃はオモチャなんかじゃなかった。
「あ、……ぁあ、うっ……」
 鉄也は地面にうずくまって血を吐いた。
 俺は恐怖にあまりガチガチ震えながら井戸の鍵を開けようとしていた。鍵には五つの数字を当てはめなければならず、俺は何もわからずただオドオドしていた。男は俺の方に振り向いた。近づいてくる。俺は親父の引き出しに入っていた番号を思い出した。「23681」
 男は銃を構えた。鍵が空く。「やった!」井戸の蓋を開ける。銃声が響く。同時に、俺は井戸の中に落ちた。その銃弾から逃れようとしたのだ。
 …………
 …………
 気が付いたときには中は真っ暗で、何も見えなかった。
「っ……」動こうとすると背中がひどく痛んだ。足腰も痛む。置いた時の衝撃で強打したのだろう。ずっとずっと上の方に光が見えた。地上へ繋がる光だったが、あまりにも遠くにあるためそこにたどり着くのは不可能だった。
 意識が朦朧とする。頭が痛い。地面はなにがあるのかわからないがざらざらしていた。手探りで井戸の中を探る。予想していたより大きい井戸だった。水の枯れている井戸でよかった、と安心した。だが、安心している場合じゃない。
 動物の毛皮のような感触がした。驚いて手を引っ込める。その手は鋭い牙で噛まれ、俺は叫ぶ。グルルルル……という声がする。手の痛みを堪える。どうやらここには動物がいるようだ。俺は恐ろしくなった。暗闇の中で目を凝らすと、だんだんとその動物のシルエットが浮かび上がってきた。
 犬?
 いや、狼だった。
「どうして狼がこんなところに」
 俺はもう一度目を凝らしたが、やはり犬ではなく狼だった。いやいや待てよ桜田宏二。俺は狼に似た犬を狼と勘違いしているだけなのだろう。きっと。そう納得することにした。
 サイレンの音が頭上で聞こえた。ぼんやりとしていてはっきりとは聞こえない。
 サイレンの音の後に、「井戸の中に若い男が転落しました。直ちに避難してください。繰り返します。井戸の中に??」という避難勧告が出されていた。
 俺は耳を疑った。それって俺のことではないのか? 意味がわからない。
 そういえばあのとき鉄也が……。俺ははっとした。そうだ! 鉄也が撃たれて、俺は井戸に飛び込んだ。父親が残した番号で鍵を開けたのだった。父親はここの管理をしていて、そのためこの鍵番号を知っていたのだろう。
「鉄也……」
 涙があふれた。
 俺のせいで犠牲になった鉄也に申し訳なくて仕方がなかった。うずくまって泣いていると、地面が微妙に湿ってきているのに気がついた。湿っているのではなく、何らかの液体がじわじわと湧きだしていたのだ。
どろどろとしている液体で、どんどんと湧きあがり腰のあたりまで来た。俺は立ち上がる。「なんなんだこれは」
 頭に痛みが走る。そのとき、頭の中で声がした。
“待っていた”
“これでオレは自由になれる”
「だッ、誰だッ」
 井戸には俺以外誰もいない。狼しか??。ということは、狼が? いや、それはいくらなんでもありない。俺はパニックに陥ってどうにかしているだけだ。どろどろした液体はどんどん湧きあがってくる。俺の胸の辺りまで迫っていた。
“そうだ、お前が聞いている声は狼だ”
“お前はオレの封印をといてくれる貴重な人間だ”
「な、なんだそれ……」
“狼と契約すると言え。そうでなければお前はこのまま溺れ死ぬ”
「ふざけんなよ意味わかんねえよ」
“言えばお前とオレはここを出ることができる。進化した形でな”
 液体は俺の喉にまで迫っていた。苦しかった。もう少しで俺は溺れ死ぬ。ドクンッ、ドクンッ、と緊張で心臓の音がバクバク鳴った。怖かった。死にたくない。俺は死にたくない……!
「おっ、狼と契約する!」
 俺は叫んだ。その瞬間、液体は消えた。俺は疲れ切って地面に倒れた。
周囲を見ると狼はいなくなっていた。代わりに狼の毛皮のようなものがあった。俺は液体で冷え切った身体で寒さのあまり震えていた。そのため毛皮を羽織って、身体を少しでもあたためようとした。毛皮はあたたかく、心地よかった。
 しばらくすると、その毛皮は俺の身体を締め付けてきた。
「うっ!」
 毛皮は俺の全身を覆いつくしていく。
「おッ、お、おぉ、ぉお、ぉぉぉ」
 猛烈な痛みに俺はもがいた。汗がだらだらと落ちる。全身の関節がゴキゴキと音を鳴らしている。身長が急激に伸びたようだ。痛みがなくなると、だんだんと俺の中に性的な快感が広がっていった。ペニスが激しく勃起した。
ミシミシ、という音がした。
 胸板が分厚く、逞しくなっていく。腹筋が次々に割れていき、そのひとつひとつが隆起し見事な腹筋へ変わった。肩に筋肉がどんどん盛り上がっていく。肩幅は広くなり、腕や足も筋肉で逞しく強靭になる。肉体の変化に着ていた衣服がすべて破けてしまった。
「うおッ、うおッ、うおおおおおぉぉぉぉぉぉッ!!」
 筋肉が発達していく快感は凄まじく、いつの間にか十回以上も射精を繰り返していた。いつもは二回でもう出なくなってしまうというのに。
 き、気持ちいい……。
 俺はあふれる性欲を感じ、オナニーしようと自分のペニスを握った。その感触がいつもと違い、驚いた。いつも以上にカチコチに硬くなっているばかりか、ペニスはあきらかに一回太くなっていた。長さも尋常なく増している。
 特大ペニスは前より敏感になっているのか握るだけで「うっ、うっ、」と射精をしてしまった。
 牙が生えてきて、爪も鋭くなった。頭や顔の形も変わっていき、狼のような顔になった。
「アオオオオオオオォォォォンッ!」
 俺は本能でそう叫んでいた。
「お、俺は……」
 狼男に、変身したようだった。最高の気分だった。こんな快感初めてだったからだ。しかもこんな強靭な肉体を手に入れてしまった。
 ジャンプして井戸から飛び出した。狼男となった俺の脚力を持ってすれば、楽勝だった。狼と契約するとは、こういうことだったのかと思った。
 同時に、狼男となった俺は狼の記憶も手に入れた。その記憶によると、俺の父親は自分の仕事の恐ろしさから仕事を投げ出して家に帰り、その隙をついたある若い男が井戸の中に入り、俺と同じように狼男となり、町の人間を襲った……というものだった。十年前の事件とは、それだったのだ。
 その十年前の狼男はドジなことに海に溺れて死んだらしいこともわかった。その狼男が死ぬことで、狼との契約が切れ、その男は死に、狼の方はまたこの井戸に戻ってきた、ということらしい。
 井戸の外に出ると、鉄也の死体があった。中年男は消えていた。今の俺にはもう、鉄也を哀れむことができなくなっていた。
「ただ逝くんじゃつまんねえよなあ。俺が別の方法でイかせてやるよ」
 と、俺は鉄也の服を切り裂き、鉄也のアナルにビンビンに勃起している特大ペニスを挿入して何度も射精を繰り返した。死体を犯すのは始めての経験だったが、たまらなく気持ちが良かった。

久米田薫の場合:

 俺の住んでいる家は、不気味な井戸のある雑木林近くにある。
両親と俺は十年前、その井戸から始まった連続快楽殺人事件の起きた日、遠くの病院にいたので被害者になることを奇跡的に逃れた。重い病気をわずらっているため、定期的にそこの大きな病院へと通院していたのだ。
 その町から出て他のところに住もうか、という意見も出たが、家のローンはまだまだ残っていたので、そうはいかず、今もこの井戸近くの家に住んでいる。雑木林には極力近づかない。近づいたら両親にきつく叱られるのもあった。
 俺はもう高校卒業間際で、もう少しで自立して上京しようと思っているから、井戸のことなどもうどうでもよかったのだが。
 自分の薫という女の子っぽい名前が嫌で、小さいころ「改名してよ」と両親によく頼んだが、両親はその名前をよっぽど気に入っているらしく取り合ってもくれなかった。友人である鉄也にそのことを行っても、鉄也もまた両親と同じような反応をするので、半ばあきらめている。
 鉄也には他に桜田宏二という友人がいるらしく、その話をよく聴いた。最近聴いた話で印象的だったのは、宏二と一緒に井戸に乗り込む、という鉄也のことばだった。
「やめとけよ」と言っても鉄也はニヤニヤするだけで、どうやら楽しんでいるようだった。「スリルが足りないような」と鉄也はよく言う。口癖のようなものだ。別に俺はスリルとか正直ガキっぽいと思っているから、いつも曖昧な返事をしている。
 家が井戸に近いためか、他の子供より人一倍「井戸は恐ろしい」「近づくと死ぬ」ということを徹底して教え込まれた。普通そんなこと言われたら余計気になってしまうところだが、そのあたりこの町の教育はしっかりしているようで、興味がうせるほど徹底的に指導をする。
 厳しい指導のストレスで重い病気がさらに重くなったんじゃないかと思うほどだ。俺の病気は原因がよくわからず、はっきりとした名称がない。ただ、小さいころから他の子供より体力が極端に少なく、息切れするし、そのせいか今もガリガリに痩せている。コンプレックスだった。
 さらに、心臓が奇形らしく、ふとした拍子に何秒か心臓が止まって、死にそうになる。そうなったときは直ちに常に携帯している赤いカプセル状の薬を飲んだ後、病院に駆けつけなければならないのだ。その赤い薬は遠くの大きな病院からもらっている。ところが最近、
「体力がなさすぎるのを少しずつ改善しましょうね」
 ということで、不透明な白い液状の薬をもらった。まだ認可されていない薬で高額らしいのだが、俺の担当医が、
「君でこの薬の効能をどうしても確かめたいんだ」
 と言って、自身で薬代を負担してくれるらしいので、俺はそれを快諾した。白い液状の薬は半透明の白いボトルに入れられていて、一日一回、朝食後に少量飲む。
 一気に五本もらった。たった五本で三十万円ほどもするらしいのだが、そこまで高いとその医者に申し訳なくも感じられる。しかし、医者は本気でこの薬の効能を俺で試したがっているようだった。
 その医者は実は鉄也の父親で、鉄也からもお願いされたため遠慮しながらも五本一気にもらった。こうなると、なんだか鉄也サマサマという感じで嫌なのだが。ときどきその液体が精液に見えて、気持ち悪くなるときがあった。しかし、三十万円だ、と思ってグビグビ飲む。我慢だ。これで体力が増すのなら。

 白い液体の薬を飲み始めて、一週間で効果が出た。これといって運動や筋肉トレーニングなどしていないに、マッチョとまでは行かないがそれなりに逞しい肉体になっていたからだった。鏡に写る自分の分厚い胸筋を見て、興奮した。貧弱だった俺が、ここまで凄くなるなんて……。
「すげえ」
 思わずつぶやいていた。この薬はホンモノだ、と思った。なぜか、心臓が止まりかける回数も減っていたのだ。体力が増したからだろうか。
 それにしても、体力というのは性欲にも比例しているのだろうか、と思うほど、性欲も増した。今まで一日オナニーしないくらいでは別になんともなかったのだが、今では、一日しないだけでひどくムラムラするのだ。
 そういえば鉄也はかなり筋肉質な男だった。俺と同い年だというのに、他のクラスメイトからも軍を抜いているほどである。裸を見て言っているわけではないが、服を着ていても十分にムキムキだということがわかる。そのためか鉄也はクラスメイトから「ナルシスト」と呼ばれることがあった。筋肉質=ナルシストというイメージがあまりにも安易すぎると俺は思うが。
 一時期、鉄也には「狼男」というあだ名がついた。クスラメイトの一人の男子が、
「鉄也こいつ昨日の夜公園で見たんだけど、狼男に変身してたぜ? 全裸で」
と言ったからだった。クラスのやつらはその男子をいっせいに非難し、「バッカじゃない?」「死ね」と言われて、あっという間にいじめられっ子になってしまったのを覚えている。それから、鉄也をおちょくるときはみんな揃って「狼男くん」というのだった。
 俺は密かにほんとに鉄也は狼男なんじゃないかと思えてきて仕方がなかった。あくまで、カンでしかなかったが。いや、こんなことを考えるのはよそう。ばかばかしい。

 今日は卒業式だった。
「高校での生活はとても楽しいものでした。とても楽しくなったのは、何より先生のおかげです。先生はみんなに真摯に対応し、すばらしい授業をしてくだり、さらには……」
 長ったらしい生徒代表のつまらない話が続いていた。その間、俺は横目で左斜めの前に座っている鉄也を見た。なぜだろうか。あの薬を飲み始めてからだった。俺は男に対して若干だが性欲を抱くようになってしまったのだ。
「……何よりお父さん、お母さんの存在が大きく、両親がいなければ私はこの場に立っていることはなかったと思います。本当に感謝しています。そして部活です。部活は毎日続けるのは大変でしたが、三年間続けてその重要さに……」
 生徒代表の話はなかなか終らなかった。保護者席に座っている親たちや、他の生徒の仲には感動して泣いているやつがいたが、俺は白けきっていた。
「……本当にありがとうございました」
 拍手があがる。つまらない話は終ったようだ。安心していると今度は校長の話が始まった。「マジかよぉ」と思って俺はしばらく寝ることにした。
 目を醒ますと校長の話は終りかけで、ラッキーだと思った。
鉄也の方を見ると、鉄也はいなくなっていた。抜け駆けしたようだ。卒業式を抜け駆けするってどうよと思ったが、そこではっとした。そういえば、鉄也は宏二と一緒に井戸に行く、と言っていた日だ。きっとそこに向かったに違いない。
 鉄也と宏二がどうなるのか気になって仕方がなく、俺も抜け駆けすることにした。教師に、「すんません、トイレ行きます」と言って体育館を出、自転車に乗り井戸のある雑木林へと向かった。
 その途中で、重い持病が発症した。
「うっ……!」
 数秒心臓が止まり、どうしようもなく苦しくなり地面に倒れた。ポケットから赤い薬を取り出して急いで飲んだ。地面で薬が効いてくるのを待った。十分くらいすると、どうにか歩けるようになった。
 緊張して、喉からカラカラになってしまった。今日の朝、あの白い液体を飲み忘れているのを思い出し、喉を潤すのと兼ねてボトルを取り出し、いつもより多くの量をゴクゴク飲んだ。この味にもだいぶ慣れてきた。飲むと、身体の調子が格段に良くなった。
 そのときだった。サイレンが町中に響いた。サイレンは雲のようにこの町中を不気味に覆っていくようだった。その後、こんなアナウンスが流れた。
「井戸の中に若い男が転落しました。直ちに避難してください。繰り返します。井戸の中に??」
 避難勧告だった。
 小さいころから何度も聞かされていた両親のことばを思い出した。
「いいね? サイレンが鳴ったら逃げるんだよ。そうじゃないと猛獣のような男がやってきて殺されちまう。サイレンは、そう、史上最悪の殺人鬼がやってきたのをあらわすんだよ。わかったね?」
 しかし俺は、友人鉄也の方が気になって仕方がなかった。若い男とは、鉄也のことなのか、それとも……。

 再び自転車をこいだ。息がぜえぜえ上がった。急がなければ。
 雑木林に着いた。有刺鉄線と太い木々に囲まれているので、井戸はなかなか見えず、イライラした。有刺鉄線が無理矢理こじ開けられた形跡がある場所から、ようやく井戸が見えた。そこで見た井戸の横には??
「えっ?」
 俺は目を疑った。鉄也が大量の血を流して倒れていたのだ。
 どうしてだ? どうしてだ? 俺はパニックに陥った。意味がわからない。これは夢なのだろうか。頬を叩いた。痛い。夢? 夢じゃない。足元が抜け落ちそうな恐怖に陥った。足がガクガクと震える。
 そのときだった。「うおおおおおぉぉぉぉぉっ!!」という男の叫び声が、井戸からした。確かに井戸の中からだった。井戸に落ちたと言うのは、宏二なのだろうか。今度は「アオオオオオオオォォォォン??ッ!」という獣のような、人間のような、そんな声がした。
 次の瞬間、井戸から剛毛に覆われた獣のような何かが飛び出して地面に着地した。良く見ると、それは、あきらかに狼の顔で、鋭い爪、牙、盛り上がった胸板、腹筋、ぶっとい手足、全身を茶色の毛で覆われている。まさしく狼男そのものだった。
 狼男が実在する?
 いやいや、ありえないって……。目を擦ったが、やっぱりそれは着ぐるみとは思えない迫力で、どう見ても狼男そのものだった。
 その狼男は鉄也の死体を長く太い見事に勃起したペニスで犯し始めた。
「!!」
 狼男に犯された鉄也の肉体は、驚くことになぜかどんどん傷が修復されていき、同時に鉄也はどんどん筋肉が発達し逞しくなっていく。そのせいで服はすべて破れた。全裸になった鉄也の肉体はさらに狼男同然の筋肉質な肉体に進化していく。全身は剛毛で覆われていき、体つきや顔が変化してき、狼男そのものになった。
 それには鉄也を犯した狼男本人も驚いているような顔をしていた。
「う、嘘だろ?」
 俺の恐怖はピークに達し、そこを飛び出して逃げた。自転車に乗るという発想さえも消えてしまうほど混乱し、何度も転びながら必死で走った。
そのためか、またあの持病の発作が出た。
「うっ!」
 地面に倒れる。
「薬……薬を……っ」
 急いで赤い薬をポケットから取り出し、口に入れて唾液で飲み込んだ。死にそうな状態だったので、あの白い液体を飲めばまた元気が出るだろうかと思い、ボトルを二本飲み干した。
「まだ誰かいたのか! おいっ、そこの君! 早く逃げろっ!」
 男の怒号の声がし、そちらを向くと警官が二人がいた。警官は俺の死にそうな格好を見て、パトカーへと俺を引きずって乗せた。パトカーの後部座席で横になった俺の呼吸は、収まるどころかどんどん荒くなっていった。
「大丈夫か、もう少しだ、もう少しで病院に着くからな」
 助手席に座っている警官は何度も俺にそう言った。運転席に座っている警官は無言で運転に集中している。サレインの音はまだ続いているらしく、車内にも聞こえてきた。
「はあっ、はあっ、はあっ」
 俺の全身からは異常なほど汗が流れていた。苦しい。かなり苦しい。息をするのも精一杯だ。視界もぼんやりとしてきた。現実が遠くなっていく気分。もう駄目かもしれない。
 身体の関節がギシギシ痛むようになった。骨がゴキっ、ボキっ、という音を立てる。
「ぐあっ!」
と激痛に俺は叫んだ。それに伴い身長が高くなっていく。
「ど、どうした!」警察官は俺の様子を見て愕然とする。
「うっ、ううっ、うぐっ! うおおっ」
 激痛がおさまると、今度はペニスが見事に勃起した。だんだんと性的な快感がしてきて、俺は射精した。射精は何度もしてしまった。
ミシ、ミシミシ、という音がして、胸筋がゆっくりと逞しく盛り上がっていく。
「ぁ……ぁああ、う、ううぅ……」
 とても気持ちが良かった。強烈な性的快感に股間を抑え何度も射精する。
「おい、これはまさか」と助手席の警察官が言う。
「いや、“アレ”ではないだろう。もしも“アレ”ならとっくにそうなってるはずだ」と、運転席の警察官が答える。
「そ、そうだよな。とにかく今は一刻も早くこの町から出ないとな」
 “アレ”とは何なのだろうかと思った。
「うおっ、うおおおおおおおぉぉぉぉぉ??っ!!」
 そうしている間にも俺の肉体は筋肉質になっていった。
 胸板は分厚くなり、腹筋はきれいにボコボコに割れ、ひとつひとつが盛り上がっていた。肩幅は広くなり、尻は引き締まる。腰のラインは鋭くなる。腕や足も筋肉で太くなっていく。ビリッ、ビリリッ、と、着ていた制服は破けた。全裸になって気づいたのだが、ペニスまでも逞しくなっていた。長く太くなり、精液まみれになっているペニスはカチコチに硬くなり、堂々と屹立していた。
 身体の調子が非常に良かった。持病もすべて完治したように思えた。
 一体俺は、どうしたんだろうか? しかしそんなことどうでもいいくらい、今は気持ちよかった。最高の肉体を手に入れた俺には、この先何があっても大丈夫な気がした。
 次の瞬間、肉体は茶色の剛毛で覆いつくされていった。顔や骨格が変化していき、俺は狼男に変身した。鋭い爪、牙、尻尾、大きな尖った耳、突き出た鼻と口。
「ハッハッハッハッハ……」
 狼男になった俺は尻尾を振って運転している警察官に飛びついた。ハンドル操作がムチャクチャになったパトカーは近くの家屋に突っ込んだ。ガシャン! という凄まじい音がした。助手席にいた警察官は、警察官であるというのに慌てすぎてシートベルトを忘れていたらしく、衝撃でフロントガラスを突き破り地面に突き飛ばされた。
 俺は強靭な肉体の力で衝撃を耐えた。あふれる性欲を抑えきれず、俺は運転席の警察官を全裸にさせ、そのアナルに特大ペニスをギュッ、ギュッ、と挿入していく。さっきの衝撃でぐったりとしている警察官は抵抗できず、されるがままになっている。
 好き放題警察官を犯した後、かつてない空腹の絶頂がやってきた。肉! 肉が喰いたい。その衝動に警察官の腹の肉を鋭い爪で抉り取り、ガツガツと食べた。毎日の訓練で引き締まっている警察官の肉はうまかった。パトカーの中は血まみれになっていた。
 そのときだ。ベコッ、という音がした。上を見ると、車の屋根が凹んでいた。
「おー、やってるなあオイ」
 というハスキーな声が聞こえてきた。俺は臭いでその声の主を仲間だと感じた。車外に出るとパトカーの上に二人の狼男が立っていた。どうやら宏二と鉄也のようだ。
「二つだけ教えてくれ、鉄也」
 と俺は鉄也に尋ねた。
「あ? なんだ?」
「どうしてお前は生き返って狼男になったんだ。そして、どうして俺は狼男になったんだ」
「狼男になったことを後悔してるのか?」
「いや、全然してねえぜ。むしろ、歓迎だ」と俺は笑う。
「俺が蘇ったのは、俺が元々狼男だったからだ。生き返って狼男になったわけではないんだぜ?」
「なッ……!」
 これには宏二も驚いていた。
「本当なのか?」そういえば鉄也は人間の状態でもかなり筋肉質だった……。
「嘘をついてどうする」鉄也は続けてこう言う。「狼男の精液はな、他の狼男の怪我などを完治させる力があってな。俺は狼男になった宏二に犯されると推測していた。で、見事成功ってわけだ」
「じゃ、じゃあ二つ目の質問に答えてくれ」俺は動揺していた。「俺は、どうしていきなり狼男になったんだ?」
 鉄也はクツクツと笑った。「お前はいきなり狼男になったんじゃねえよ。前からゆっくりと狼男に向けて進化していってたんだ」
「どういうことだ」
「お前、白い液体の薬を飲んでいたよな。あれはな、俺も昔飲んでいた。いや、父親に飲まされていた」鉄也の父親は俺の担当医であり、体力が増す薬を無料でくれたやつだった。「あいつはなんつうか、マッドサイエンティストなんだな。息子の俺を最初に実験体に使って、あの薬を飲ませ続けた。結果、俺は狼男になっちまった。つまり、お前は俺の次の実験体にされていたんだ」
「!?」
「で、ちゃんとあの薬を飲み続けていれば、お前は今日きっちり狼男に目覚めるようになっていたんだ」
「お、俺たちは、」と俺は言った。「これからどうすればいいんだ?」
「決まってるだろ、なあ、宏二」
「こんな最高な肉体を手に入れたんだ。最大限にこの肉体を楽しまなきゃ損じゃねえか」と宏二は答える。「これからは人間だったころのわずらわしいものに邪魔されず、本能で生きて行けばいいんだ」
 俺は精液と血にまみれている、自分の逞しい肉体を見て答えた。
「だよな」

菅原司の場合:

 俺は大学に行かず工場現場でアルバイトしたり、引越し業のアルバイトなどで食いつないでいた。どこかに就職するのは面倒くさく、面倒くさいというより、ひとつのところに留まる、ということが俺は苦手だった。
 筋トレが好きだったので、体を使うアルバイトは楽しかった。それで一生暮らせるわけではないが、そのうちどうにかなっていくだろう、という変な考え方があって、惰性で暮らしている面もあった。
 ボロアパートに住んでいるのだが、ボロアパートでなければジムに行く金を捻出することができないからだ。アルバイトで月に大体15万〜18万稼いでいる。食費などを差し引いても、他に俺はほしいものがないため、普通のアパートでも大丈夫だったのだが。
ジムに行き、汗を流しているときが一番充実している瞬間だった。その後やってくる筋肉痛も、俺に達成感を与えた。プロテインも毎日飲み続け、そのおかげで俺の肉体は筋肉質だった。もっとカッコイイ肉体を手に入れたくて、最近日焼けサロンにも通い始めた。
 隣に和哉という男が引っ越してきた。
 俺と同い年で、そいつはいわばガリ勉タイプで、大学生らしいのだが、よく勉強をしているようだった。俺からよく話しかけるようになると、友達になり、よく遊ぶようになった。
 和哉は俺の部屋によく来るようになった。和哉はガリ勉のくせにスケベなやつで、俺に話しかける内容は大抵性に関する内容で、たまにうんざりすることがあったが、興味が惹かれていた。
「俺さ、最近何時間もかけてイクのにハマってんの」と和哉は言った。オナニーのことらしい。「イきそうになったらそこでやめて、おさまってきたらまた始めて……って、それを何時間もかけるわけ」
「そんなにやってるとイチモツが痛くならねえのかよ」
「ちょっとな」和哉は笑った。「なあ、ここでやってやろうか」
 俺は若干気になった。軽い気持ちで、「おお、やれよ」
「やるからお前もやれ」
「わかった」
 和哉はズボンとパンツを脱いだ。けっこうでかいイチモツが現れた。
「でかいなお前の」俺は素直に言った。
「だろ? 毎日の成果じゃねえの」
 俺は服を脱ぎ全裸になった。
「おおー、すげーいい体してんじゃん」和哉は感嘆した。
「へへ。俺は裸にならなきゃやる気でねえんだよな」ズボンとパンツを降ろすだけでもオナニーは出来てしまうが、俺は全裸でなければなんというか興奮しない。精液が思わぬ方向に飛び散って自分にかかってしまったとしても簡単に洗い流せるし。
 俺たちは自分のイツモツを手で何度も擦った。イきそうになるとやめ、また再開、という流れを何度もやった。
「いい顔してるねえー」と和哉は、イきそうになっている俺の顔を見て言った。早く出してしまいたいという気持ちがどんどん大きくなってきた。
 カチコチに硬くなり出そうになるとやめた。しばらくするとまたやわらかくなってくるので、やわらかくなってきたらまた扱(しご)きだす。勃起を繰り返していくと段々とチンポはちょっとでも扱くとすぐにカチコチ状態になるようになって、これを何時間も続けるなんて俺にはイライラして出来そうになかった。
「もう……出していいか?」
 大きなイチモツを扱きながら眉を顰めている和哉に射精の許可を求めた。
「駄目だ。まだ初めて三十分も経っていないじゃないか」
 俺はイきたくてうずうずしていたがイってしまうと和哉に怒られるので、無造作に床に置かれていた若手俳優の写真が表紙の週刊誌を手に取って暇つぶしをすることにした。
 週刊誌の記事を読んでいく。「石原慎太郎鼻血出し花粉症に」「ドラえもんに隠し子がいた!」「高校受験の甘い罠にかかった七十八歳女性」「ノートPCのバッテリーボックスから発火原因はお嬢様の密かな性癖〜サディストとマゾヒストについて愛の考察〜」「ゆとり教育万歳俺万歳」
 どれもつまならい記事ばっかりだったので雑誌をゴミ箱に捨てた。どうしてこんなもの買ってしまったのだろうと後悔した。高価なものではないのが救いだが。
 俺のペニスは勃起していないもののちょっとでも刺激を与えればすぐに勃たつだろうという敏感な状態のままずっと続いていて、これを一時間以上我慢する、というのは、俺には無理そうだ。
「なんだ、司、お前もうやめたのか」
「いや、お前みたいに俺は根気良くないんで。お前が出すときに俺も出すは。それまで何もしない」
 和哉はもうちょっと筋肉つければいいのに、俺は思う。筋トレは体にもいいのだ。俺は毎日筋トレがしたくてたまらない。体をいじめるのが楽しいのである。いじめるたびに徐々に逞しくなっていく体を見るのが好きだった。正直言って俺は若干ナルシストだと思う。
 和哉が何度も扱いて止めて、を繰り返すのを見ていると少しだけ興奮した。男に興奮するなんて俺はゲイの気があるのだろうか。少なからずあるのかもしれなかった。
 暇だったので他の雑誌もパラパラめくって読んでいると何故か和哉は俺に近づいていた。
「どうした?」
 飽きたのか、と思った。いや、自分から言い出して飽きるなんてことはないだろう。
 和哉は俺に問いに答えず、どんどん俺に近づいてくる。緊張した。俺は裸だし和哉もいつの間にか裸になっていたからだ。なんだこれ、ゲイじゃねえか俺ら。と、冗談半分で思っていた。
 和哉は俺に近づくだけで何も言わずまた自分のイチモツを扱き始めたので、俺はまた雑誌を読みふけった。しばらくして、俺は、
「んッ」
 と思わず声をあげていた。股間が猛烈に熱をあびたように興奮する。
「うっ、うっ、ううっ、うおっ」
 続けて声を上げる。
 俺のペニスは生温かいざらざらした舌に包まれ、執拗に絡むようにペニスを刺激された。なんと、和哉が俺のペニスを口に含んでいた。快感と驚きで読んでいた雑誌を床に落とす。
「か、かず、和哉っ、やめっ、ろ」
 和哉は返事をせずにひたすら俺の陰茎を刺激した。それによりカチコチに勃起した俺の陰茎は今にでも射精しそうだった。
 これじゃあ俺たちはまるでまんまゲイじゃねえか。和哉はなんとなくその気があるように思えていたが、まさか本当にゲイだとは思っていなかった。
 何よりも驚くのが、自分が、今和哉にされていることに対してさほど違和を感じていないことだった。ゲイの資質があったのは、むしろ俺のほうだったのだ。これまで一度も女を好きになれなかったのは、このせいだったのだと覚った。
 俺は自分の性癖に気がついて、心が鎖から開放されるような気分になった。
「うう、うお、おぅ……」
 そして俺は射精した。精液を和哉の口の中にぶちまける。
 和哉はそれを躊躇いなく飲み込む。和哉は興奮しているようで勃起していた。
 俺はこわごわと、しかし確実に和哉のペニスを口に咥える。男のペニスを咥えるなんてもちろん初めてだった。吸い付くように舌を上下させ、カリの部分を執拗に舐める。
 和哉は快感に顔をしかめる。咥えるのをやめると、和哉は自分で自分のを扱いてイった。その精液は俺の顔や胸に飛び散った。
 俺たちはお互いの脚を絡ませ、性器と性器をぶつけあったりした。
 体中に付着した精液を伸ばした。どんどん興奮して汗をかいた。汗と汗がぬるぬるとして気持ち悪い。男と男のごつごつした肌と肌が密着する。熱気が部屋の温度をあげていく。相手の乳首に吸い付く。荒い呼吸が重なり合う。
 外では何やらサイレンがしていた。サイレンが鳴るのは町の中心あたりだから、町の隅にあるこのアパートにはそんなにはっきりとサイレンの内容が聞こえない。聞こえたとしても、今の俺たちは無視しただろう。
 俺は和哉のアナルに挿入しようと、潤滑剤をたっぷりと塗っていた。
 そのときだった。
 外で物凄い轟音がした。
 ドガンっ! という音だった。その後沈黙が流れる。
 周囲は驚くほど静かだった。周囲の人間は既にサイレンを聴きつけて避難したようだった。俺たちだけ取り残されていたようだ。
 窓から外を見ると近くの民家にパトカーが突っ込んでいた。パトカーはぐちゃぐちゃになっていた。地面には運転していたであろう警察官がフロントガラスを突き破り外に飛ばされたようでぐったりと血を流しながら倒れている。
 パトカーは中に獣がいるかのごとく、停止したのにかかわらずぐらぐらと揺れている。しばらくするとパトカーから血が吹き出した。いや、違う、ぽっかり穴が開いたフロントガラスから血が吹き出している。
 俺たちはその様子を窓から眺めていた。
 しばらくすると、その中から、獣が出てきた。
 それはまさに狼男だった。
「あれ……なんだ?」俺は言った。
「狼男じゃん」
「コスプレ?」
「食ったんじゃね、中の人」
「まさか」
「すげーいい体してるなあの狼男」
 俺はそっちに興味を惹かれていた。
 今度は遠くから狼男が二人(あるいは二匹)やってきて、パトカーの上に立った。
 三人となった狼男たちは何かを話しているが、俺たちが見ているところからは何を言っているのかまったく聞こえない。
「窓、開けるか?」
「開けようぜ」
 窓を開けることにした。
「ん? あれ、なかなか開かない」
「お前窓めったに開けないからなあ」
 ちょっと力を入れたらガラっと開いた。予想より大きな音がなって、狼男たちがこちらをいっせいに見た。鋭い眼光を向けられ俺はびっくりした。
 三人の狼男は互いに目を合わせ、ニヤリと笑った。次の瞬間、猛スピードでこちらに駆けてきた。あまりのスピードに俺たちは驚いて腰が竦んだ。急いで家の奥に向かう。ちょうど狼男が窓から家に入ってくる。ものすごく怖かった。コスプレだとしてもあれはすごくリアルで恐怖心を抱いていた。
 あっという間に俺たちは捕まってしまった。
「なあ、こいつら裸じゃね。何してたんだよ」狼男が言う。
「こいつらも俺らと一緒のアレだろ、アレ」と他の狼男が答える。
 狼男の肉体は非常に逞しく、ムキムキだった。胸板は分厚く盛り上がり、腹筋はボコボコに割れている。ペニスはかなりでかくて、俺のペニスの倍以上の長さと太さだった。見事に勃起して、白濁した液体を滲ませている。
 圧倒的な筋力で捻じ伏せられ、柱に鎖で括りつけられた。
 その日から、俺たちは狼男たちの性欲処理係りとなってしまった。どうやらコスプレなんかではなく、ホンモノのようだ。
 毎日二十回以上はアナルに挿入され、犯された。彼らのペニスはでかく逞しいから、挿入されると激痛を伴った。たまに快感も感じたが、痛みの方が大きかった。
 狼男たちの逞しい体を見るたびに俺は密かに興奮していた。
「なんで俺たち、七日間も飲まず食わずで生きてるんだろう」と和哉は言った。
「わからん」俺は答える。
「しかし、あんまり俺、死ぬほど空腹ってわけでもないんだ。おかしいよな」
「俺もだ」
「狼男に犯されれば犯されるほど、なんか、力が湧いてくるっつうか」
「……」
 それには狼男も驚いているようだった。いつもどおり血まみれになって俺たちの縛られている家に帰ってくると、「今日もこいつら生きてるぜ?」と笑っている。そういっておもむろに狼男たちは俺たちを交代交代で犯すのだ。
 なぜだろうか、犯されるのはあんなに苦痛だったのに最近は気持ちよくなってきていた。
 今日は狼男は人間の状態になって俺たちを犯した。人間の姿でも筋肉質で浅黒い肌でかっこよかった。俺も狼男のようになりたい、と思うようになっていた。人間の状態だと俺とほとんど年齢が変わらないように見えた。
 二週間が過ぎても俺たちは生きていた。狼男に犯されているおかげだろうか。なぜだろうか体の調子が逆にすごくよくなっていた。
 俺はもともとけっこう筋肉質だったからわからなかったが、和志は俺と同じくらい逞しくなっていた。やたらと勃起するようになり、手だけ動かせる状態だったのでひたすらペニスを扱いては射精するようになった。そのため俺たちの周囲は以前よりますます精液でぐちゃぐちゃになっていった。
 一ヵ月後。
 俺たちの肉体は以前と比べ物にならないほど強靭になっていた。
 その日、いつもように狼男に犯されていると、かつてないほどの衝撃を感じた。
 ドクンっ、
 ドクンっ、
 ドクンっ、
 と心臓が強く脈拍を打つ。
 体が締め付けられるように痛い。
「うおっ」
 汗がおそろしくだらだらと流れる。ペニスは激しく勃起していた。
 そのとき俺のアナルに挿入していた人間の状態の狼男のペニスは強く締め付けられたようで、「おおっ」と叫んでいた。
 俺の中で何かが覚醒した気がした。
「うっ、うおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉっ!!」
 叫んでいた。激痛。
 射精を繰り返す。
 激しい快感に俺はクラクラした。
「き、気持ちいい……」
 ミシミシ、という体が締め付けられるような音。
 みるみるうちに、俺の胸板は分厚く盛り上がっていく。
 胸が張り裂けるような感覚。
 腹筋がボコボコに割れる。
 肩に筋肉が盛り上がる。肩幅は広くなっていく。
 腕はぶっとく盛り上がり、腰は引き締まり、見事の上半身が完成した。
 今度は下半身が強化されていく。極太長大のペニスに射精を繰り返しながらゆっくりと進化していく。足は太く筋肉が隆起する。
「うっ、うっ、ううっ」
 肉体が逞しくなっていく快感は凄まじかった。射精が止まらない。
 全身から剛毛が生え、鼻は前に突き出していき、骨格も狼男のそれに変化していく。
 そうして俺は狼男へと変身した。鎖を破るのは楽勝だった。
 和哉を見ると、俺と同じように狼男になっていた。
「す、すげえな」
 俺は言った。
 その様子を見ていた狼男たちはひどく興奮したようで、俺たちは五人で乱交した。

「それにしても、狼男に何度も犯された奴も狼男になるとは、俺も知らなかった」と鉄也は言った。
「すげえ気持ち良いな。狼男ってこんな最高な生き物だとは知らなかったぜ」へへ、と俺は笑う。性欲も凄くて、ファックしてもまだおさまらず、オナニーを何度もした。こんなに一日に何度も射精できるなんて夢のようだった。
 しかもこのムキムキの肉体……俺の理想だった。
 俺たちの日常は朝起きると、犯し合い、その後外に出かけて人を食い、また家に帰り犯し合いという本能のままに生きる最高のものだった。
 狼男が五人集まれば、一つの町を占拠するくらい何のそのだった。
 しかし、その三ヵ月後鉄也は人間に完全に拘束された状態にされ、研究所へと連れ去られた。人間たちの持つ技術力により狼男を捕縛する道具が密かに作られていたようだった。

倉橋英雄(くらばしひでお)の場合:

 俺、英雄の働いている製薬会社は表向きドラッグストアなどに流通している薬などの開発をおこなっていたが、裏では狼男の動きを封じ込めるための麻酔薬の開発が進められている。
 狼男は非常に強靭な肉体なので通常の麻酔薬じゃほんの一瞬動きを鈍らせることにしかならない。つまり意味がなかった。
 俺は二年前からこの麻酔薬の開発に勤しんでいる。
 最近、狼男が井戸に落ちたために発生してしまったという事件があった。なので、その麻酔薬の需要は飛躍的にあがったのだが、肝心の麻酔薬が完成していないため、猛スピードで仕事に取り組んでいた。徹夜は当たり前だ。
 今まで仕事一直線だった。
 高校生の頃、一度俳優を夢見た。
 俺は俳優になれば売れただろうハンサムな顔をしていたが(周りのみんなに言われたから、そうに違いない)、父親が断固として反対した。母親には泣きつかれ、やめた。自分に演技力があるかわからず、怖かった気持ちもあって簡単にやめてしまった。自分の弱い意思に、今では後悔している。
 高校は超一流、大学も超一流のところに、大学院、そして現在の研究所という、エリートコースを歩んできた。父親が満足する顔も見れば、ほっとするからだ。それは親を安心させたいからではなく、自分が怒られたくない、できるだけ周囲との摩擦を減らしたいがためだった。
 だから自分がゲイであることも誰にも告白していない。
 告白すれば他人と距離が出来る。面倒だ。絶対に告白したくなかった。告白したところでどうにかなるのか、という諦念もあった。
「倉橋さん」
 女の研究員に呼びとめられる。
「なんですか」
「手、止まってますよ」
 俺は笑う。「すんません、考えごとしちゃって」
「めずらしいですね」
「そう? 俺ってそんなアホっぽく見えてるの?」
「いえ」と女は笑う。
 これが俺の日常。
 ただ給料がたくさんもらえる日常。楽しいことは特にない。

 女は二宮麗(にのみやれい)といった。もう一度言っておくが、俺は女に興味がない。彼女は美人だったが、どれだけ美人であろうが、どうでもよかった。
「英雄さん」
 二人だけの研究室。静けさが緊張を生んだ。
 突然名前で呼ばれ、どきっとした。いままでずっと名字だったのに。
「英雄さん」と麗はもう一度言う。「わたし、英雄さんのことが好きです」
 沈黙。
 頭痛がする。
「ごめん」
 俺はそういって立ち上がり、研究室を出た。

 対狼男麻酔薬、第一作が完成した。しかしこれは、狼男の動きを十分ほどしかとめることが出来ない。室長に「これじゃあまだまだ非実用的だな。がんばれよ」と言われる。
 しかし翌日、その麻酔薬は使用されることになった。狼男の活動がさらに過激さを増してきたらしい。
 弾丸に小さな針が装備されたような注射器が、専用の銃に込められる。武装し、シャッターを開けたところから走り出していく兵士たちを、俺は目を細めて見ていた。もう少しで戦車も出動するらしい。まったく役に立たないらしいが、戦車は一応ハッタリとして必要なのだ。
「早く中に」と室長に急かされる。「俺たちの役目はひとまず終わったんだ」
 中に逃げ込むとき、麗と目が合う。思わず目を伏せてしまう。
 彼女が口を開いて何か言おうとしたとき、外から銃声が聞こえてきてそれは掻き消されてしまった。狼男の遠吠えが聞こえてきて、思わず姿勢を低くした。
「狼男は予想より研究所の近くに潜んでいたらしい」
 という誰かの声が聞こえる。

 一匹、あるいは一人の狼男が研究所に担ぎこまれた。
 麻酔薬は十分しか通用しないので、何度も麻酔薬を投与され酔ったのか狼男はげっそりとしていた。
 一気に全部の狼男を捕らえる予定だったらしいが、見事に失敗した。予想以上の狼男の強さに、こちらの兵士はほとんど全滅した。しかしどうにかこの一体は捕獲したのだ。
 狼男からは血生臭いと精液の交じり合った臭いがしてきた。この狼男は他の狼男に「鉄也」と呼ばれていたやつらしい。
 俺は狼男の逞しい筋肉質な肉体に、無意識のうちに惹かれていることに気づき、驚いた。
 狼男は俺を見て、ニヤリ、と笑った。
どうして笑うのだろう。こんな絶望的な状況で。
 この狼男は新しい、より効果のある麻酔薬を作るためのサンプルになる。
 研究室で俺と狼男の二人だけになる。狼男は頑丈な拘束具に捕らえられて硬いベッドの上で身動きができない状態だ。俺はその周りをゆっくりと歩きながら、話しかけた。
「薬が完成すればもとの、普通の人間に戻れるからな。安心しろ」
 狼男は唾を吐いた。
「何言ってんだよ。俺は狼男になれて最高だと思ってるぜ?」
 どうやら狼男になると心まで毒されてしまうらしい、と思った。

 研究所内になる自室に俺は帰ると、狼男の逞しい肉体、あの大きなペニスを思い出してオナニーした。
「うっ、うう、うお……」
 精液が飛び散る。それを丁寧にふき取り、ベッドに入り、眠りに就いた。

 麻酔薬を作るため狼男の血液を採取しなければならない。
 狼男のいる頑強に設計された、牢屋のような部屋を訪れた。昨日と変わっていることといえば、狼男が人間の姿に戻っていることだった。ベッドの周囲には夥しい量の毛が落ちていた。
 人間の状態でもそいつは非常に筋肉質な強靭な肉体と特大ペニスを持っていた。俺は自分のペニスがゆっくりと起き上がるのを感じた。こんな殺人鬼のような男に興奮する自分に、苛立ちを覚えた。
 狼男の腕を軽く押さえ、注射器で血液を採る。その最中に、
「お前、ゲイだろ」
 と突然、男は言った。
 手が止まる。図星だった。心臓が一瞬止まりそうになった。
 どうしてこいつがそれを知っているんだ?
「き、興味ないに決まってるだろ」
 血液を採り終えて、台所のようになっている台の上に注射器やらを置きに行く。振り返ると、狼男は笑っていた。
「なんだよ」俺はいらつきながら言った。「なんなんだよ!」場違いな大声が部屋に響く。手が震えた。汗が額に滲む。
「気が変わったらまた俺に言えよ」
 と狼男が言った。俺はその部屋を出た。まだ心臓がバクバクいっている。

 自室へ戻り、今日の研究データをパソコンに打ち込まなければならない。しかし作業は進まなかった。狼男のことばが頭から離れなかった。
 俺は麻酔薬と、狼男化をとめる薬の二つを作っていた。
狼男側についてもいいんじゃないか? という考えが脳裏をよぎる。いや、駄目だ。あんな殺人グループに入るなんて。しかし??。

 夜も、俺は狼男のもとに言った。もちろん、仕事のために行かなければならない。これは重要な任務だ。指紋認証と暗証番号入力をおこない部屋に入る。
 パソコンに入力するデータが足りなかった。ゲイだと言われ動揺して仕事を早々に終えてしまったから、つまりこれは残業だ。
この部屋は完全防音だからわからなかったが、男は大声をあげながら狼男に変身している途中だった。
 骨格や顔が狼男のそれに変化すると、胸の筋肉が分厚さを増していく。腹筋がさらに割れる。太く長いペニスは極限まで勃起したようになり、ビクンビクンと動きながら何度も射精を繰り返している。肩に筋肉が盛り上がり、足や腕も筋肉でぶっとくなり、肩幅は広くなり、爪が鋭くなる。目の色は深紅に染まり、全身が茶色の剛毛で覆われていく。
「ァァアっ! やっぱこの瞬間が一番気持ち良いぜ」
 と狼男に変身した男は言った。
 その迫力に驚いた。俺はその様子を見て完全に勃起してしまっていた。股間の部分のズボンが盛り上がっている。
「やべえな」と狼男は言った。声が低くなっていた。
「何がだ」と俺は答える。
「このまま拘束具外して暴れちまいそうだ」
「……外せるのか?」
「当たり前だ。この程度」
「じゃあ、」と俺は言う。声が震えた。「どうして逃げない?」
「お前を仲間に出来ると思ったからだ」
俺は黙る。なんだと?
狼男は続ける。
「でもな、俺、このままじゃ我慢できず外に出ちまうぜ? このまま暴れちまったらお前も俺も、困るだろ。だから、拘束具外しても警報機が作動しないように、お前がこの拘束具を、持ってる鍵で外してくれ。それで俺はお前で性欲発散、さらにお前は狼男への第一歩を踏み出せるんだぜ? で、それが終わったらまた俺を拘束すればいい。そしたらみんなお前を疑わないし、この研究所が俺の餌食になることもない」
「待て、俺はまだ狼男になるなんて決めてない」
「決まってるんだろ、ほんとは」
 狼男に言われたとおり、実は俺はもう狼男になる決心をしていた。それは狼男が変身するところを見て、より強固な気持ちになっていたのだ。
「あ、ああ」
「決まりだな」
 俺はポケットから鍵を取り出し、狼男の拘束具を解放した。途端、狼男は俺にとびつい来た。押したされ、服を切り裂かれると、強引にアナルに特大ペニスを挿入された。その大きさがあってか、めちゃくちゃ痛かった。涙が出てきた。
 しかし何度も犯されるうちにそれがだんだんと快感になってきた。狼男の逞しい肉体が俺に密着してくる。
「うっ、うっ」
 思わず射精してしまう。

 翌朝、鏡を見ると自分の体が昨日より少しだが、筋肉質になっているのに気づいた。それからというもの、俺は時間さえあれば狼男の性欲処理係としての役目を果たすようになった。
 繰り返すうちに、俺の肉体はますます筋肉質になっていき、顔つきも変わって精悍になった。ヒゲの伸びが早くなってしまったのが唯一の悩みか。
 そして密かに麻酔薬の効果を無効化する薬を作り、狼男の肉体をさらに強化する薬も作った。弱体化させる薬と違って、これは簡単にできた。そして麻酔薬のデータをすべて消去し、パソコンのハードディスクを壊した。麻酔薬一号と二号のサンプルも捨てた。
 狼男を研究所から脱出させる日がやってきた。作戦は静かながらも確実に遂行されてきた賜物だった。
 警備員の少ない深夜の時間帯を狙い、狼男の拘束具を外した。
 立っている姿の狼男は横になっている姿より威圧感があった。変身により急激に身長も高くなって190センチを超えているので、俺との身長差が20センチ近くもあった。平均的な身長の俺がかなり小さく見える。
 ドアのロックを外し、外に出る。先に俺が部屋から出て警備員の巡回が周囲にいないかを確かめる。
「大丈夫だ」
 と言うと、狼男は俺を担いだ。お姫様抱っこをされ、恥ずかしくなり、
「もっとマシな担ぎ方はないのかよ」
 というと、
「これが一番持ちやすいんだ」
 と狼男は答えた。
 狼男は走り出した。どこに向かえばいいか、次どちらに曲がればいいか、については俺がすべて指示を出した。研究所内の構造は複雑だったが、三年もここに住んでいる俺はそれらを覚えるくらい簡単だった。
 俺はポケットから四本の注射器を取り出した。二本は麻酔薬を無効化する薬、もう二本は狼男の能力をさらに強化する薬だ。ポケットにはまだあと六本ほど狼男を強化する薬が入っている。
 その麻酔薬を無効化する薬を狼男に注射した。
「なんだこれは」
「麻酔薬を無効化するんだ。便利だろ」
 途中、夜間のためシャッターが降ろされ通れない場所があった。狼男はそこに何度か体当たりしただけでシャッターを壊した。
 そのため警報が鳴り響いた。警報機の赤い光が通路を赤く染める。
 俺にはまったく聞こえなかったが、狼男にはこちらに近づいてくる兵士の足音が聞こえるらしい。
「人数がめちゃくちゃ多いな。予想外だ」と狼男は笑った。
「笑ってる場合か」
「俺ひとりじゃこいつら全部殺すのに時間がかかるな。そしたら厄介なことになるよな。なあ?」
「ああ、まあ、そうだな」
「狼男が二人なら、結構楽勝なんだよな」
 と狼男は言って、俺を床に降ろし服を切り裂いた。俺は全裸にされた。
「なんだ、いきなり、やめろよ」
「兵士はあと五分くらいで来るだろうな」と狼男は言う。「それまでにお前を狼男にしちまえば、一緒に殺せるよな。お前、今まで何回俺に犯された?」
「わからん。もうちょっとで百回に行くくらいじゃねえのか」
「狼男に百回犯されたら、狼男になっちまうんだ。知ってたか。お前の体つきからして結構筋肉質になってきているから、ほんとにあと少しなんだろう」そういって狼男は俺のアナルにビンビンに勃起した大きなペニスを強引に挿入した。
「うっ」思わず声をあげる。
 しかし何度もアナルを体験しているため最初味わったような激痛はなく、快感の方が大きかった。俺も勃起してしまう。
「おっ、おうっ、う」
狼男の大量の精液が俺のアナルにドクドクドク……と注ぎ込まれる。あまりの量にアナルからあふれた。
 次にフェラチオをされた。狼男の精液を迷わず飲み干す。そうすると俺の中で性的な快感が生まれた。粘っこい生暖かい液体が俺の喉を流れていく。
 体全体が暑くなってきた。汗が流れる。喉がカラカラになった。
 俺は震える手で狼男強化剤を自分に注射した。
「うお……」
 血液が沸騰したようだ。頭が痛い。眩暈がする。吐き気。
 狼男強化剤は強烈な性的興奮も促す作用があるので、俺のペニスは最高に勃起していた。狼男に犯された直後にこの注射をしたので、効果は倍増するはずだ。
「……うっ」
 ミシミシッ、という音。
俺の胸筋は痙攣しながら、ゆっくりと盛り上がっていき、分厚く立派になり、見事な逞しい筋肉が形成されていった。
隆々とした胸板が完成すると、今度は腹筋がボコボコに割れて行く。綺麗に六つに分かれた腹筋はジムで鍛え上げられたもの同等、それ以上だった。
 肩には岩のような筋肉が盛り上がっていき、肩幅が広くなり、腕や足は筋肉で太く逞しいものへと変化していく。
「うっ、ううっ、うおっ、おォっ」
 筋肉の凄まじい変貌は俺に激しい性的快感を与えた。ピュッ、ピュッピュッ、と何度も射精してしまう。
 今度はペニスが変化していく。ビクンっ、ビクンっ、と射精を繰り返しながら、射精する度にペニスは太く、長い見事なものへと進化していく。極太長大サイズになった俺のペニスは、カチコチだ。
 肌の色が浅黒く変化していき、俺の肉体はあっという間にアダルトビデオの男優、それ以上のものになった。
「凄くなったな」
 と狼男は言った。
 そのときだった。兵士が俺たちの周りを囲んだ。兵士の一人、高田という男が、狼男の横にいる俺に気づいて言った。
「先輩、どうしてここにいるんスか? 全裸で……」
 俺はクク、と笑った。
 そして叫んだ。
「うおおおおおおおおおおォォォォ――ッッ!!!」
 俺の骨格が狼男のそれに変わり、全身の筋肉が余すところなく茶色の剛毛で覆われていく。
「へへッ、どうだ高田、すげーだろ。めちゃくちゃ気持ちいいぜ?」
 高田だけではなく、他の兵士も狼男になった俺を見て呆然としていたが、隊長らしき人物が「殺せ!」と言ったので、戦闘が始まった。もっとも、俺たちの圧勝で終わったが。狼男になった俺は激しい性欲に身を任せるように殺戮と死姦を繰り返した。
 研究所を脱出した外でも、俺は狼男とはじめて獣のファックをした。

立川雅人の場合:

 序

 狼男が発生してから半年が過ぎようとしていた。
 狼男の最大の特徴は若い健康的な男であれば誰でも確実に狼男に出来る、という点にあった。そのため狼男の数は、狼男が町を移動・破壊・侵略を繰り返すたびに増えていく。
 しかし狼男たちは少数先鋭を目指しているため、自ら狼男になることを志願する若い男しか狼男にさせることはなかった。
 少数先鋭といっても、その数はあまりにも膨大である。

 立川雅人(1)

 俺は立川雅人という。大学三年生だ。大学の男子寮に住んでいる。しかし大学はずっと休校状態だ。その理由はもちろん狼男で、狼男から逃れるために次々に出来るだけ遠くへ逃げる人々が多かったからだ。
 俺はここからはなれることを断固として拒否した。俺は狼男になりかたかったからだ。半数近くの人間はもうここを離れている。
 狼男が俺のいるところまで来るのはあと一週間ほどらしいと推測されている。
 テレビのニュースではしきりに避難するよう警告が流れている。自分から電車などで出向こうかと思ったが、線路や道路はすべて封鎖されて通れないようになっているから無理だった。
 地下に逃げる人もいたがそれは無駄だった。狼男は飛び抜けた嗅覚や聴覚を持ち合わせていたため、すぐに見つかる。
 狼男に対する興味は日に日に増えていった。
 あの逞しい肉体…長大極太ペニス…本能がままに行動するパワー…すべてが俺の理想だった。

 さらなる進化(1)

 そのころ宏二は、鉄也がつれてきた英雄とかいう狼男の持つ薬を自分の中に注入していた。なんでも、狼男の能力を活性化させるすばらしい薬だという。少量でも効果がありすぎるようだ。
「うっ……」
 薬を注射して一分もしないうちに宏二はうめき声を上げた。
 特大サイズのペニスがゆっくりと勃起していき堂々と反り返って臍に密着する。睾丸も大きくなり、ムラムラと性欲が漲ってくる。
 体中の血管が浮き上がり、猛烈に体が暑くなってくる。
ただでさえ盛り上がっている胸板はさらに逞しく、腹筋の凹凸が激しくなり、筋肉は背中を包むように逞しく盛り上がっていく。腕は筋肉でさらにぶっとく、足腰が極限まで鍛え上げられていく。丸太のごとく太くなり引き締まった足、パンパンに膨れ上がったでかい腕が完成する。
「うおッ、おおお、…ッ、うおおッ」
 強制的に宏二の肉体は狼男化していく。体の芯に激痛が走り、頭が上に引っ張られるような気持ち悪さを感じながら、骨がギシギシと鳴りながら身長が高くなっていき、二メートルを超えた。視界が高くなり、自分が万能になったかのような錯覚があった。
 背中が少し曲がり、爪はますます鋭くなっていくにともない、爪のあまりの進化に指先から血が滴り落ちる。宏二はその血を丹念に舐め、愉悦に浸った。鮮烈な赤い液体が喉を心地よく滑っていく。
「うお……」
 狼男になってから人間の状態ではほぼなかった胸から下腹部まで続いていた体毛がもぞもぞと言い、一斉にその陣地を増やしていき、俺の肉体を茶色の体毛が覆い尽くしていく。毛が生えていく瞬間の体が包まれるような心地よさがあった。
 目は獰猛な深紅に染まり、目は鋭さを増した。口の両端が盛大に血を流しながらゆっくりと広がっていき、鼻を取り込みながら前へと伸びていく。耳はどんどん上へと上がっていき、ピンと釣りあがっていき縦長の三角形の毛に覆われた耳となった。
 尻の少し上辺りにもぞもぞと何かが動いているのを感じ、触ってみると尻尾が伸びていた。足の形が変わり、面積が広くなっていくと同時に爪が鋭くなった。
「…うっ、うっ、ぅぅうう……」
 想像を絶するような快感に叫び声をあげることさえ憚れた。射精をしようと思ったが快感が強烈すぎて出来なかった。我慢汁が滴り落ち体中を覆う剛毛と絡み合う。
「うおおおおおおおおおおおォォォォォォ??ッ!!!」
 しごいてもいないのに我慢していた精液が一気にペニスから飛び出す。今までではありえない大量の精液だった。ピュッ、ピュッと出るのではなく、ドシュッ、ドシュッ、と飛び出す。
 牙はますます鋭く長くなるようで口の中に血の味がじんわりと広がっていった。
「うおッ、うおッ、うおおおッ……」激しい射精の度にペニスはビクンッ、ビクンッ、と、ますます長く太くなっていく。
 鉄也を捕まえてアナルにペニスを突っ込んで腰を何度も激しく振った。ガクガクと壮絶な快感に身を震わした。そうしているうちに鉄也も狼男化した。あまりに大量の精液は相手の全身を汚した。
 何よりも進化したのは性欲だった。三時間もファックしたのに性欲はまったく衰えなかったのだ。まだペニスはビンビンに勃起している。先からはぼたぼたと精液が垂れている。
 逃げ遅れた人間の男を食うことにした。その男の服を爪で簡単に切り裂いた。思ったよりその男は筋肉質で胸筋が盛り上がっていた。その逞しい胸板をむさぼる。返り血が俺の顔に飛び散る。ますます凶暴化した牙で肉を噛み千切り咀嚼すると、体を震わしながらその旨さを存分に味わった。
 死体となった男の周囲には血の水溜りと、俺が人食行為の快感に知らず知らずの間に射精を繰り返してしまったようで、男の体に強くモノが押し付けられていた部分にも精液が円を描いていた。血とネバネバとした精液が混ざり合い、異臭が立ち込める。その異臭が俺には快感で、嗅覚を刺激した。
 次に腹の部分に噛みつくと、すぐ肋骨があらわれた。肋骨を乱暴に取り除く。いくら狼男といえども、肋骨をすべて取り除くのは手間が少し必要となった。一つ肋骨をへし折り取り除くだけで、人間の皮膚がぐちゃぐちゃに破れ、新たな血が吹き出して俺の体を血で濡らした。シャワーを浴びているような気持ちよさだった。
 すべての肋骨を取り除くと、もう腹はまったく原型を留めておらず、内臓と血と肉の塊がそこに散乱しているだけとなった。
「やってるな」と鉄也が近づいてくると、宏二は人間の目玉をえぐりとって、鉄也に向かって投げて、こういった。目玉は鉄也の盛り上がった胸に当たると、地面に落ちコロコロと転がったがすぐに止まった。
「俺の獲物をとるなよ」
「わかってるぜ、そんなこと」鉄也は目玉を踏み潰した。
 宏二は長く続いている腸を自分の体に絡みつかせて、まず心臓を手に取り、右手で簡単に握り潰した。絞りたての血液という表現がぴったりなほど血が飛び散り、それを飲んでヘラヘラと笑った。
 次に太股の肉に噛り付き、射精を繰り返しながら(狼男に変身する前はまだ夕方だった)夜空に浮かぶ満月を眺め、吼えた。
「アオオオオオオオオオオォォォォォォンッッ!!!」

 立川雅人(2)

 俺はその夜、かすかだが、狼男の遠吠えを聞いた。
ぞろぞろと寮に住んでいる男たちが外に出てきて、
「今の声、アレだったよな」「やべーよな、そろそろ逃げねえと」「でもまだ狼男は来るのに最低一週間かかるってニュースやってたよな」「そんな情報本当かどうかわかんねえぞ。俺は明日ここを出るぜ?」「そうか、じゃあおれもそういうようかな……」
 などなど話していた。
 俺は深夜のニュース番組が好きだ。昼間のニュースは狼男の画像がほんの一瞬しかでないが、深夜はたまに「取材」と称し三十秒ほど狼男の映像が流されるからだ。その狼男を俺はその夜のオカズにしてペニスをしごく。深夜といっても規制がかかるためさすがにファックのシーンや人食行為のシーンは流されないのが残念だ。
 しかしネットでは狼男のそういった行為の最中の画像が公開されている。政府・警察がそれを厳しく取り締まっているためなかなかそういった画像・動画にはめぐり合えないのだが。見つけられたとしても一週間もしないうちに削除されてしまう。まあ、見られるだけで十分なのだが。それを見ると、俺はひどく興奮してしまい、パソコンのディスプレイに釘付けになる。そして狼男になりたい、という意識を強めていくのだ。
「おーい、お前も聞こえただろー?」誰かがドアをノックする音。俺は仕方なく自慰を中止した。
 録画していた狼男の深夜ニュースは連続再生モードにセットされていたため、狼男の姿が何度となくテレビに映っていた。消すのは面倒くさいし、わざわざ部屋まで入ってこないだろうと俺は思い、それをそのままにしておいた。
 パソコンの画面には狼男が人肉を引きちぎる画像や特大ペニスでファックしているところの動画が再生させられていたが、それもそのまま放置した。見られたとしても、「狼男について知りたくなった」と言えばいいだけだからだ。
 ドアへと向かおうとすると、パソコンの画面の右下に新着メールありという画面が出ていた。パスワードを入力しメール確認画面を開き、内容を読んだ。狼男情報が更新されれば自動的にメールが送られるようにしていたのだ。メールはそれだった。
 画面に記されている指定のURLをコピーしてアドレスバーに貼り付け、Enterを押す。画面がそのサイトに移る。
 新しいホームページスペースに移転した「おお通」というサイト。最初は「狼男通」という名前だったのだがすぐに警察に摘発されてしまった。そのため、わかりにくく、「おお通」に変更し、一部の常連にだけURLを教えて移転したサイトなのだ。管理人と仲よくなっておいてよかったと俺は心から思った。
「おーい」俺をせかす声。言われなくてもわかってる。黙れ。しかし口には決して出さず、
「すまんすまん、今トイレなんだ」と言う。
 そのサイトには新着狼男画像と動画がずらりと並んでいる。俺はほくそ笑んだ。より大画面でそれを楽しむため、インターネット接続可能なゲーム機にネット回線を接続し、そのサイトを開いた。大画面になるとやや画像は荒くなってしまうが、それは仕方がない。
 あとでゆっくりと見ようと思った。今はちゃんとドアを開けてやって話しをしなければ、これから少し間、人間関係が面倒くさくなってしまう。俺は面倒くさいことが、大嫌いだ。だから今少し我慢をしてやつらと作り笑顔で話してやればいいだけだ。
 俺はドアを開けた。一人だと思っていたが、予想外に多く、三人の男が俺の部屋になだれこんできた。
「訊いたか?」
「訊いたよ、そりゃ」
 俺はへらへらと笑いながら答える。あー、うざってェ。

 さらなる進化(2)

 人間の肉を貪り食い全身血と精液にまみれた宏二を見て、鉄也はニヤリとした。
「それでこそ狼男だ。お前もなかなかサマになってきたじゃねえか」
「当たり前だ。俺は普通の狼男よりさらに上の存在なんだからな」
 一度に射精する量がハンパではないので、男を50回犯すだけで狼男にさせることが出来るようになっていた。これなら、一日で一体狼男をつくりあげることができる。
 しかし宏二は仲間を増やすことより選びぬかれた、さらなる進化を遂げた狼男同士で激しいファックに明け暮れ、お互いの肉体をさらに鍛え上げていくことにハマっていた。
 宏二は人間の状態でも勃起すると握りこぶし三つ分を優に超える逞しい極太・長大サイズの逞しいペニスを持ち、体脂肪率0%の極限まで絞り鍛え上げられ、その上に隆々と筋肉が盛り上がっている肉体であった。
 肌は浅黒く、顔の余分な肉はそぎ落とされ、前よりも二重がくっきりとし、精悍な顔になっていた。
 胸板は分厚く盛り上がり、腹筋はひとつひとつの筋肉の膨らみが凄まじく、ボコボコに六つに割れていた。肩はごつごつと筋肉が盛り上がり、肩幅は広く、首は一回り太くなっていた。すべてを薙ぎ払えそうな太く筋肉が隆々としている腕に、シェイプアップされ引き締まった腰や尻。背筋は背中を覆うように逞しく見事な逆三角形の肉体を形成していた。太股は引き締まりつつも脅威のジャンプ力をはじき出す強靭さを兼ね備えており、ふくらはぎも太く筋肉質に変貌していた。
体毛は平均的な人間よりも多く、胸から下腹部にまで幅の広い一直線に体毛が生え、ペニスと睾丸の周囲の陰毛は進化した性器の大きさに追いつくようにもっさりとしていた。足の体毛が一番濃く、絡みついていた。それらの体毛が筋骨隆隆とした肉体をより際立たせているのは紛れもない事実であり、男らしさを強調していた。
 見事に勃起し反り返って白濁として液体を先走らせている宏二のペニスを、鉄也は口に咥えて舌でしごいた。
「うッ、うおッ、おおッ、おおおおォォォッ!」
 ドシュ!ドシュ! と宏二は激しい快感にあっという間に射精した。射精した後も、まだ足りないと言って様子で、ペニスはビクンビクンと動いている。
 鉄也の口に宏二の大量の精液がドクドクドク……と注がれる。一滴残らず飲み干し、「??ッァァア! やっぱ最高だぜ」と鉄也は言った。狼男の精液は狼男の肉体をより強靭なものにさせ、さらには快感にまでつながるからだった。
「まったくお前ら朝っぱらからよくヤるぜ」と薫は言った。薫もさらなる進化を遂げた狼男のひとりだった。
「何だよ。お前だって司と和哉で乱交してるくせに」宏二は答える。
「へへ」と薫は笑う。
 見晴らしのいい比較的低いビルの上に飛び乗り、鉄也は言った。
「おーい、宏二」
「何だ?」
 宏二も屋上へと飛び乗る。上空をヘリコプターが飛んでいた。カメラとビデオカメラを持っている人間がいるのは、視力が格段に良くなっている宏二たちにはじゅうぶんに見抜けた。たぶんこの映像はテレビやネットで流されるのだろう。不快な気持ちになった。
「あのヘリうぜえな。飛べたらいいのにな。狼男に羽ははえねえのかな」
「はえたらキモいっつの」
「なあ宏二」鉄也は急に宏二を真正面に見据えて言った。
 そのことに驚きながら、「なんだ?」
「俺最近知ったんだけどな、進化した狼男は眼力がすげーらしいぜ?」
「なんだよ、眼力って」宏二は笑う。
「冗談じゃねえよ。進化した狼男と目を合わせたやつは、獣の因子が目覚めるらしいぜ。人間は、うまく行けばそれだけで狼男になっちまう可能性だってあるんだ。といっても、かなり少ない可能性だがな。それが狼男の場合、俺らのシモベになる可能性もあるらしい」
「少しだけなんだろ? そんなちっちぇえ可能性にかけるより犯したりするほうがよっぽど確実じゃねえか」
「そうだけどな、ま、一応知っておいた方が得、程度の話だ」
「そうか」

 立川雅人(3)

 部屋に男三人が入ってきた。その三人は新体操部に入っていたからか、例外なく筋肉質で、俺はそれとなくその体に目を遣った。パソコンやテレビがある部屋に入ると、ネットで手に入れた無修正の狼男が全裸で(当然だが)上をじっと憎憎しく見つめている動画が自動的に再生されていて、なんとなく、嫌な空気になった。
「おまえこんなのばっかり見てんのか」
「ちげーよ。こいつらが俺の敵か、っていうことを確認してたんだよ」と俺は笑う。
「そっか、じゃあ雅人さまがウルトラマンのごとく狼男を全滅してくれるんだな」と笑いがおこる。
 ふとテレビの画面に目を向けると、深紅の目の俺の理想である狼男を目が合った。目が合ったというのは、相手の狼男が画面の中の存在だから正しい表現の仕方ではないが、それでもやはり、「目が合った」のである。そうすると、もう目が離せなくなってそれをじっと見つめて硬直した。なぜだろうかまったく目が離せず、俺は夢中になっていた。
「どうしたんだよ」
 という声がうざったく聞こえる。無視して見続ける。
 心臓がドクッ、ドクッ、と強く脈打つのが感じられ、その音がすごく近くに感じた。手の平に汗を握っていると思うと、額から汗が流れ、いつの間にか全身汗でびっしょりと濡れていた。胸が締め付けられる。
 熱い……。
 喉が異常に渇き、水が飲みたくて仕方がなかったがテレビ中の狼男の目から、視線を外すことが出来なかった。目の奥がじーんと焼けている感覚。頭の中で興奮物質が大量に放出されているような興奮。
 何かが俺の中で暴れているのを感じる。体が……? いやもっと精神的なものだ。俺の中に眠っていた、なんだろうか、この猛々しい感じの……それが活動を始めたような……クソッ、頭が痛い、しかし、なんだろうか、すごく気持ちがいいんだ……。
 ズボンの股間を盛り上げて、ペニスはカチコチに勃起していた。痛いくらいだ。
 そのとき、俺の中で何かがはじけ、頭の中に、まるでフラッシュバックのように狼男の映像が次々に浮かび上がった。肉をむさぼる狼男。犯しまくる狼男。筋肉質な肉体、逞しい……雄の象徴……汗が止まらない。心臓が、……、??。
「なあ、なあ、どうしたんだよ、なあ」周りの男がうるさい。黙ってろ。黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ。目が回る感じ。視界がグラグラと揺らぐが、狼男の瞳の深紅だけはくっきりと見えていると言う、変な感じ……。
 呼吸が不規則になる、汗が止まらない、心臓が、胸が、痛む??。
 ォ、
 お、
 オレ、
 お、俺は……、
 頭の中に、俺の中に狼男の意識が流れ込んでくるようだった。狼男に洗脳されていくような、どういえばいいのかよくわからない。く、くる、苦しい、気持ちいい。なんだこれは、イク、うッ、うおッ、おおおおおおおおおおおッ!
 次の瞬間、
 ――――ブチン、
 意識が途切れて、
(…………………………………………)
「あ?」
 目が覚めれば、俺の周囲には三つの死体が転がっていた。さっきまで喋っていた体育会系の体をした三人が死んでいた。薄っぺらい安物の絨毯はたっぷりと血を吸って、血の湿原のようだった。いたるところに血が飛び散っている。
 そして俺の手には、真っ赤に染まった包丁が握られていた。
服は返り血でひどく汚れている。
「俺が、殺したのか?」
 どう見てもそうとしか思えなかった。しかし今、俺は「そんなこと」より??、
「う、ううッ、うおおおォォ……」
 目の前に死体に俺は興奮した。股間の盛り上がりははち切れんばかりであった。こんなに激しく勃起したのは初めてだった。俺は服を脱ぎ、全裸になり、ペニスを死体の穴に強く押し付けた。
「うッ……」
 そして男の包丁でズタズタにされた腹部の、逞しい腹筋を舐める。恐ろしいほどの快感が俺を襲う。膝がガクガクと震え、射精した。それでも俺の興奮はまったく収まらない。
 そしてその腹筋に噛みつき、肉をむしり取ってクチャクチャと口の中で執拗に咀嚼した。気がつけばペニスが押し付けられている先は精液が溜まっていた。次に男の胸の部分を露出される。筋肉が程よく盛り上がった胸に勢いよく齧り付く。しかしなかなか噛み千切れず、右手に持っていた包丁で胸を切り裂いた。顔に血が飛び散る。唇に付着した血を舐めて飲み込んだ。生暖かい液体が喉を心地よく通っていく。そしてもう一度再チャレンジ。ゆっくりと時間をかけて噛み千切る。
 背中の肉を今度は貪る。ペニスをアナルにギュッギュッ、と強く挿入し、死体を犯しながら背中の肉をゆっくりと食べた。
 そのときだった。
 ドアが強く開け放たれる音。
「何があったんだ!」
 あーもう面倒くせえなあ俺は今快感の絶頂にいるんだよ邪魔すんなよ殺すぞクソが。
 包丁を握りしめて、立ち上がる。さっさと殺しちまおう。
 しかしその声と気配は消え、別の気配があらわれた。ドアへ向かうと、駆けつけたらしい男たちが血まみれになって倒れており、その上に狼男がふたりいた。
 念願の狼男! 俺はますます興奮した。口の中の肉を噛み千切る。
「お、俺を狼男にしてくれ!」
 俺は叫んだ。
 狼男のひとりはニヤリとして、
「お前はもう狼男だぜ?」
 と言った。
 俺は自分の肉体を見た。なんだ、人間のままじゃねえか。
 と思った瞬間、俺の変身は始まった。
「うおおおおおおおおおおおおおおおォォォォ――ッ!!!」
 ペニスの勃起は最高潮に達し、臍まで反り返り、精液を滴らせる。骨がゴキッ、バキッ、となりながら、身長が高くなっていく。激痛に「アッ」と言葉にならない声を発した。胸筋が軽く痙攣を起こしたようになり、ゆっくりと確実に、盛り上がっていく。パンパンに膨らんでいく、大きく張り出した胸。腹筋は引き締まったかと思うと、ひとつひとつが逞しくなってボコボコに割れた見事な腹筋へと生まれ変わる。肩には筋肉がどんどん盛り上がっていき、体がぐっと大きくなったように見える。事実、大きくなっていた。肩幅が広くなり、背筋がプルプルと震えながら背中を逞しく逆三角形の肉体を形作る。首は太くなり、腕もあっという間に筋肉で膨らみ、二の腕の逞しさに俺はホレボレとした。足腰は引き締まりつつ、筋肉の盛り上がりをみせていく。
「うおッ、おッ、うおォ、うッ……イクッ、イクゥゥゥゥッ!!」
 ブシャ!ブシャアア! 射精が止まらない。やばい、気持ちよすぎる。今までではありえない量の精液。ペニスはビクンッ、ビクンッ、と射精を繰り返す。まったくしごいていないのに激しい快感が何度も訪れ、射精のたびに太く、長くなっていくペニス……。睾丸も重みと大きさを増した。
 俺の目は深紅に染まり、顔はますます精悍になった。指先から血が吹き出して、爪がタカのような鋭いものへと変化していく。牙が生え、歯茎から飛び散る血を飲み込み、何度も何度もペニスをしごく。いつもと明らかに大きさの違う、特大サイズの逞しいペニス。尻に異物感を覚えたと思ったら、尻尾が生えていた。鼻と口が前に突き出していき、獣の凶暴な顔に変化していく。耳が頭の上に移動する。体中の毛穴がもぞもぞするような感じがした直後、全身を茶色の体毛が筋肉を余すところなく覆い尽くす。
「ハッハッハッハ……」
 俺は狼男に進化したのだ。

サイドストーリー (地獄1に出てきた十年前の狼男の話)

この村ではないが、この村からずっとずっと遠くに離れた町の井戸に一人の男が落ちて狼男になったらしい。テレビではしきりに狼男騒動のニュースばかりで逃げ惑う人々をよく目にする。
この村はかなりの田舎で民家がまばらに建っており、あとはほとんど田圃や山に囲まれていて、信号機もほとんどないし車自体あまり走っていない。町に行くには一日四回走るバスに乗っていく人が多く、そこから食料やら日用品やらを購入したりすることでこの村の生活は充足しているといっていい。
俺の名前は拓二という。
朝起きると俺はまず顔を洗い髭や鼻毛を切り、朝食を食べ、十五分近くも歯磨きをする。俺は外見に非常にこだわっており、服装はすべて雑誌などを参考にして買っている。毎月の出費がバカにならないためファミリーレストランのキッチンでアルバイトをしている。
昼には必ず筋トレをし、良質のプロテインを飲む。ひたすら外見の向上に努め、毎日鏡を見てどれくらい逞しくなったかを確かめるのが日課だった。俺はナルシストだったが、それ以上に単に男の体が好きだったからだ。
町には高校三年の友人がたくさん住んでおり、そのうちの友人の一人礼二(れいじ)という奴はこの村に来て、
「空気がきれいだねえ。田舎っていいねえ。ほら、田舎の人って人情深いし」
というバカみたいなことを言うからうんざりしている。
田舎の人間が人情深いって確かにそれは少しあるかもしれないが、単に村の人数が少ないだけで嫌でも同じやつを毎日顔を合わせることになるので、そこで起きる人間関係の面倒くささをなくすためにみんなニコニコしているだけだろうと思う。しかもそういうのって「東京人は冷たいねえ」とか「大阪人は温かいねえ」というものと同レベルで、ほんとにくだらねえ。
空気がきれいとかほざいてるなこのクソヤロウとかいいたくなるけれど、俺は礼二のことが嫌いではなくむしろ好きだ。好き、というのは友達関係とかそんなのではなく俺はゲイであるからそういう意味で。でも単に俺は礼二の逞しい肉体に欲情しているだけなのだが。
俺は筋肉質な男に異常なまでに興奮してしまうのだ。礼二はもともと筋肉質な体質らしく、俺よりいい体をしている。
最近発生した狼男は俺の住んでいるところに来るには、かなり離れているため一年近くかかると言われている。
もう俺は十八歳にもなったというのに、家に友人を泊めることすら親は許してくれない。
今日は家出することにした。
礼二と共に田圃の中に一本通っている道を歩く。舗装されておらず、土の道路だ。田圃の他には山が見える。というか、山しか見えない。夕日がオレンジ色の淡い光で村を覆い尽くす。
その道をずっと歩いていくと、神社があり、そこには蔵のような建物がある。蔵は頑丈に閉じられているが、カギは親が持っているのを金庫から盗み出した。金庫の番号は親が夜中ひそひそと会話しているときに知った。
「着いたぜ」と俺は言う。
「げーっ! マジか。俺らこんなところに今日寝泊りすんのかよ」
「しゃーねえだろ。うちダメなんだから」
「でもよお」
「じゃあ何なら帰っていいぜ。最後のバスの時刻は過ぎてるけどな」
「わかった。一晩くらい楽勝だぜ」
蔵の中はかなり臭かった。一体何があるのだろうかと思えるほど臭く、鼻がもげそうだった。しかもかなり箱やさまざまな荷物が乱雑に置かれていたため、一人分程度しか寝るところがなかった。礼二に申し訳ない気がしたので、
「俺はここで寝る。お前は倉庫の方で寝てくれ」
 と言った。神社にある倉庫の方がまだいくぶんマシだった。そこでタオルケットに包まって礼二は一晩過ごすことにした。
「すまんな」
「別にいいし。こういうホームレス的な行為なかなか出来ないもんだし」
と礼二は笑った。俺もつられて笑う。
蔵の扉を少し開けておき、空気の入れ替えをおこなうことにした。寝るときはちゃんと締めなければ、いつ誰が来るかわからない。空気がだいぶマシになって、扉のカギを内側から締める。
寝るスペースがいまひとつ足りなかったのでいろいろな荷物をどけていると、荷物の山を崩してしまいドサドサと俺の上に落ちてきた。一瞬、気を失いそうになったが、大丈夫だった。
腕の部分を切ったらしく血がぽたぽたと垂れている。幸い頭は無傷だった。足にも怪我を負っていることに気づいた。
倉庫の中はどんどん暑くなってきたので全裸になって寝ることにした。服を脱ぎ、寝るスペースを確保した場所に移動しようとすると、さっき荷物が崩れた下に何やら大きな棺桶に何かが横たわっているのが見えた。
気のせいかと思い、もう一度まじまじと見つめると、暗闇から浮かび上がってきてそれは大人の男だった。
「うわっ!」
驚いて尻餅をつく。
どうしてこんなところに男が。しかも荷物の下敷きになっていた。
男は死んでいた。心臓の鼓動が止まっていた。それなのに男はまるで封印されたみたいに体中に札のようなものが貼られていた。棺桶の中には無数の茶色の毛でいっぱいになっている。
その男はまさしく俺が理想とする、非常に筋肉質な肉体をしていた。見事に盛り上がった分厚い胸筋にはっきりと割れた腹筋、丸太のように太い足、引き締まった腰、威圧感を与える肩の逞しい筋肉、筋肉の見事な曲線を描いている腕、さらにはペニスも非常に立派なもので、勃起していない状態なのに俺の勃起したときほどの大きさを持っていた。
それに俺が興奮しないわけがなかった。俺のペニスはビンビンに勃起している。その勃起しているモノを俺は握り、しごいた。根元をゆっくりと擦り、さらに硬さを限界まであげていく。カリの部分を人指し指と親指で輪を作るようにして何度も擦り、イきそうになるとしばらく時間を置き、再開、、、ということを繰り返しおこなった。
「うっ、ううっ、う、……うおおおっ」
いきなり一発やってしまった。白濁した液体が飛び出し、弧を描くようにして飛び散り、男の死体の足の部分に付着した。
どうして男の死体がこんなところに? しかも全然腐っていない。
もしかしてこれは、村で昔から噂されている「狼男」なのだろうか。いやいやそんなオトギ話嘘に決まってる。なにやら十年前ある町で発生した狼男はこの村の昔の村長が蔵に封印したという、日本昔話みたいなものを聴いたことがあるのだ。この村に住むものなら誰でも知っている。
俺の興奮はまだ収まらなかった。男に貼り付けられている無数の札をすべて取り除き、男のアナルに自分のモノを強く挿入する。肉につつまれていくペニスは刺激されさらに硬さを増す。ズブズブと入っていく。精液が潤滑剤となっているのか思ったよりスムーズだし、相手は死体なので痛みなどの心配などしなくていい。
「はあっ、はあっ、はあっ……!」
ヌチャ、ヌチャ、という音。俺は息を荒げてすっぽり挿入すると、激しく腰を振る。最初はゆっくり。徐々に早くしていく。俺の動きに合わせて相手の体も振動したように動く。アナルから勃起したものを取り出し、再び一気に挿入。相手が死体とはいえ、初めてのファックだ。ますます興奮し、相手の筋肉質な体を満遍なく触りながら絶頂に至った。あっという間の二回目の射精。
男の口を開いてフェラチオをしようとしたら、男の口には鋭い牙が生えていて驚いた。俺の腕から滴り落ちていた血が男の口の中に入った。もしかしてこいつは本当に狼男だったんじゃないか? と思えた。
男が入っていた棺桶。寝るにはちょうどいいスペースだから、その棺桶で寝ることにした。無数の茶色の毛が棺桶にはいっぱいあった。なぜこんなにいっぱい茶色の毛が? と疑問だったが、横になるとその毛はくすぐったく心地よかった。茶色の、まるで獣のようなゴワゴワした毛に埋もれるように俺は眠りに着いた。
寝ていると、なんだか体中がものすごく熱を持ったような感じでひどく暑く、汗が出てきたがなぜだから瞼があかないし体がまったく動かなかった。金縛りってこれのことだろうか。しかしそれとはなんだか違う気がする。体中に小さな生き物がもぞもぞと這い、俺の体を覆いつくしていくような……。
まだ朝を迎えていない深夜、ドンドンドンドンっ、と扉が叩かれる音がした。
「カギ締めてんのよかよ。なあ、俺、全然眠れねえんだけど」
と礼二。まったく面倒なやつだ。人がぐっすり寝ていたところをわざわざ自分の都合で起こしに来るなんて。寝ているフリをして無視を決め込むことにした。もう一度寝ようと思ったのだが、なぜだか棺桶の底がさっきと比べて硬くなっているような……と思ったら、茶色の毛が大量にあったのにそれらはすべてなくなっていた。
なんでだ? どうしてあのごわごわとした毛がなくなっているんだ?
不思議だった。暗闇だからその毛がどこに消えてしまったかなんて確かめようがない。
起き上がり目を擦ると、目の前に大きな影がぬっとあらわれ、驚いた。少なくとも礼二ではない、巨躯。
ドンドンっ、扉を叩く音。「気づけよいい加減」という礼二の声はしだいに遠のく。諦めて去っていったようだ。
その大きな肉体は、死体だった男のものだった。
「――――!」
思わず叫びそうになると、男に口を塞がれた。大きい手。俺は無理矢理棺桶から引きずり出され、床に押したされた。この男、もしかして生きていたのか? だがさっきはまったく反応がなかったし、心臓が止まっていたはずでは……
「俺の封印を解いてくれてサンキューな」とその男は俺の耳元で、低い声でそう囁いた。「お前のおかげで俺はやっと解放された。ご丁寧に血と精液までたっぷりお前にはもらったからな、この通り俺はかなり元気になったぜ?」
「お、お前は、なんなんだ?」俺は声を絞り出し、男に尋ねた。
「俺? 俺か? はっ、驚きだな。俺が何かもわからずに封印を解いてくれるとはな。俺は狼男だ。十年前に封印され、極秘裏にこのド田舎の蔵に閉じ込められてたんだ。それをお前は解放してくれ、この通りだ」と男、いや狼男はクツクツと笑った。「俺、この空気吸うのは久しぶりなんだ。十年分の性欲が溜まってるからな。お前で発散させてもらうぜ?」
そう狼男はいい、俺の体に抱きついてきた。逞しい腕が俺の肩と背中に巻きつき、その盛り上がった胸板が俺の胸のあたりにちょうど密着してきた。男の汗が俺にも付着する。うつ伏せにさせられる。容赦なく俺のアナルに、その男のビンビンに勃起し血管の浮き出た、拳三つ分を優に超える極太長大のイチモツが挿入された。
「うっ……」あまりの衝撃に俺はうめいた。そのあとは声に出せないくらいの激痛だった。尻が割られるようだ。男の特大ペニス同様に大きな睾丸が俺の尻に密着しているのが分かった。
「うっ、うおっ、おおおっ」
と男は叫び、盛大に俺の中に大量の精液をぶちまけた。ドシュッ、ドシュッ、という勢いで射精され、俺のアナルからはそのすべてを受け入れられずぼたぼたと精液が糸を引いてはみ出し流れた。男のファックをそれだけではまったく納まらずますますヒートアップしていった。
俺を犯している最中に男は狼男へとメキメキ変貌を遂げていった。
まず胸板や腹筋や足腰、肩、腕などには筋肉がさらに盛り上がるようについていく。一回り筋肉ででかくなった肉体の身長は二メートル近くに達していた。ペニスはカチコチに勃起したまま臍にまで反り返り、ビクンッ、ビクンッ、と十年ぶりのファックの快感に痺れているように反応し、先に精液を滲ませていた。
目つきは鋭くなり口は横に避けていき、そのあとだんだんと前に出ていき牙はさらに鋭くなり、狼の顔が完成すると、耳が血を吹き出しながら頭の上へと向かって移動していき、縦長の三角形の耳に変化した。口内は牙がさらに長くなるときに血が吹き出したため、血まみれになっている。背筋は若干曲がり、肩幅は広くなり、全身は茶色の剛毛で覆いつくされていく。尻尾が生える。目の色は獰猛な深紅に染まっていく。爪の形がタカのような鋭いものへと変化する。変身している最中も射精は止まらなかった。さらなる長さと太さを堪えたペニス。重量感を増す睾丸。完全な狼男に成り果てていた。
「うおおおおおおおおおおおおおおッッ!!!」
ブシャッ、ブシャアアアアアア! 立て続けに俺は犯される。しかし何故だろうか、あんなに痛かったものがたった数十分で、俺には強烈な快感に思えて来たのだ。いつの間にか狼男のでかいチンポを口に咥えるまでに至っていた。
狼男にぶっ通しで三時間も犯され続けていると、朝が訪れた。扉の隙間から光が入ってくる。俺はようやく解放され、服を着るのも忘れフラフラになって外に出た。
日光に照らされた俺の肉体は、いつものと明らかに違った。あの貧弱な肉体の面影はまったくない。
パンパンに盛り上がった分厚く張り出した胸板、ボコボコに割れひとつひとつが隆起している見事な腹筋、威圧感を与えるほど肩についた筋肉、引き締まった腰、肩を覆うように盛り上がった背筋、広くなった肩幅、膨らんだようにぶっとくなった血管がうっすら浮き出ている腕、丸太のような足、そして、臍まで反り返り、白濁した液体を先走らせている長く太いビンビンに勃起した、特大サイズのペニス……。
「これが、俺なのか?」
まるであの狼男に匹敵するような肉体に惚れ惚れした。
「お前の肉体は、棺桶に入っていた俺の狼男の変身が解けたときに抜けた毛をすべて吸収したんだ、驚いたことにな。お前の肉体にはどうやら獣の遺伝子のようなものが宿っていたらしいな。それも合わさってお前は普通ではありえない、異常なスピードでその肉体を手に入れたんだ、お前は」
と、蔵から出てきた狼男が言った。
「すげえ……」
と俺は呟いた。マジでこんな筋肉質な肉体すげえと思う。自分の肉体に欲情した。自分のイチモツに触れるだけで、物凄い勢いで大量の精液が飛び出し、俺の逞しい胸板に精液が付着した。胸まで飛んでくるなんて、かなりの勢いだ。
「どうしちまったんだよ、拓二……」いつの間にか神社の入り口に礼二が立っていた。口をぽかんと開けてこちらを見ている。「お前、そんな裸で、しかも何だよそのムキムキな体はよおー。お前、拓二なのか? その後ろにいる狼? 狼男みたいなやつは一体……」
俺は礼二に飛び掛っていた。そして、俺が狼男に犯されたように礼二を激しく犯しまくり、最後には礼二の肉体を貪り食って愉悦に浸った。
「アオオオオオオオオオオオオオオオオオオン!!!」
俺の肉体は狼男へと変貌を遂げて行く。胸筋はさらに逞しくはち切れんばかりに盛り上がり、腹筋の割れようはハンパなく、腕や足は一回り太くなり、肩は筋肉の鎧を纏ったように覆われ、ペニスは、ドシュッ!ドシュッッ!!と射精を繰り返しながら、ビクンッ、ビクンッとさらに大きさを増していった。骨格が狼男のそれに変わり、頭は獣に変わり、背筋は少し曲がり、牙は血しぶきをあげながらメキメキと生えていく。爪や目つきは鋭くなり、瞳孔は細くなり目の色は深紅に変わる。
「うおッ、うおッ、うおおおおおおおおおおおおおおッ―――!!」
全身は茶色の剛毛で筋肉を余すところなく覆いつくされ、俺は狼男へと変身した。
「これが狼男というものか。最高だな」クツクツという笑いが止まらなかった。
俺は強靭な肉体と強烈な快感に酔いしれ、俺を狼男にしてくれた狼男と激しいファックをした。



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